Fox on Security

セキュリティリサーチャー(インシデントアナリスト)で、セキュリティコンサルタントのキタきつねの独り言。専門はPCI DSS。

松山刑務所はインシデント想定に失敗した

愛媛県の松山刑務所から4/8に脱獄した平尾受刑囚、記事を書いている4月末時点で・・まだ見つかってないので少し考えてみます。

www.dailyshincho.jp

※4月30日補足:広島市内まで逃亡していたというオチでした。

www.nikkei.com

※やはり海を泳いで逃げたようです。空き家に隠れて保管されていた食料を食べて逃げたとの報道もあります。比較的下記仮説は合っていたようです。(漫画喫茶行かずに本州に渡った後、空き家にもうしばらく隠れていたら、逮捕するのは難しかったかも知れません)

調べに対し「海を泳いで渡った」と話している。

 県警によると、同日午前11時半ごろ、インターネットカフェの店員が「平尾に似ている人がいる」と110番した。

日経新聞記事より引用)

※所感は逮捕前の推測記事ですが、要点は変わりませんのでそのまま残しておきます。

インターネットカフェ・・・逃亡側には一見安全な施設に見えますが、防犯カメラもありますし、警察に警戒されやすいところでもあるので、あまり良い逃走の居場所では無かった気がします。

 

■補足(5/2)

報道(~5/2)で出てきているのは、

 ・雨の振った日に本州に泳いで渡った

 ・別荘の屋根裏にテレビと布団を持込んで潜伏した

 ・広島市内には盗んだバイクと電車を乗り継いで移動した

捜査関係の情報をテレビでベラベラと報じてしまうのは、逃走する犯人側がそのテレビ報道を見て無い事を前提としている訳ですが、今回の事件から考えると、あまり逃走経路(方法)や捜査網について報じない方が良いのではないかと思ってしまいますね。

 

 

◆キタきつねの所感

元々、松山刑務所は模範囚しか収容しておらず、塀の無い刑務所としても有名ですが、

 1961年以降、大井造船作業場では平尾受刑囚を含め20人が脱走している。95年には4か月間余り逃亡し、女子大生を拉致するなど凶悪犯罪を引き起こしたケースもあった。だが、それ以外のケースでは、造船作業場の近くで発見され、逮捕されることも珍しくなかった。

(デイリー新潮記事より引用)

 

当然のことながら、それ故に過去にも脱走事件を引き起こしてきています。2週間で延べ1万人以上の捜査員が懸命に探しており、その労力には敬意を表しますが、未だに捕まえられて無い事を考えると、脱走に対する1次捜索プラン(近くに潜伏している所を取り押さえる)プランが崩れた際に、効果的な2次プランが想定され無かった、あるいは2次プラン想定が間違っていた事を示唆していると言えそうです。

現在までのところ、向島の防犯カメラに24日深夜に受刑囚らしき映像が映っていたので、広島県警としては重点的に捜索を行っているようですが、しまなみ街道の検問だけでは本州への逃走は防げない可能性も指摘されています。

 

各社の記事やニュースを聞く限りでは、受刑囚を広島/愛媛県警の捜索隊が捕まえにくい要素がいくつか指摘されています。

  • 泳いでも最短200m位で本州に渡れてしまう
  • 長年放置された小型手漕ぎボートが多数あり、管理されてないので盗まれても気づきにくい
  • 空き家が1000軒近くある
  • 見通しの悪い山林
  • 田舎故に地域に存在する監視カメラが少ない

 

この手の事件に対するプロでも何でも無い、素人予想としては、

 

 一度捜索が行われたらしき空き家に隠れている(盲点になりやすい)

 ②衣服をビニールに入れて夜に本州へ泳いで渡っている(水温は大丈夫そうだし、対岸見えるし)

 

辺りでしょうか。主要な橋や本州に渡れるフェリーは検問がされている事は容易に推測がつきますし、山に潜んでいるのであれば、捜索隊が来た痕跡は感じていると思いますので、場所を移しながら逃げているとしても検問が行われてそうな所には逃げていかないと思います。

そう考えると、、私だったら監視の緩い隙を狙って『海を渡って本州』へ逃げている(その方が逃走しやすい)かと思います。その上で空き家や使われてない別荘などに潜伏して、捜索の手が緩むのを待つ・・・そんな事を考えるかも知れません。

 

 

さて、世の中はGW真っ只中です。私は・・溜まっているレポートや、ブログ記事の書き溜めの合間に、近場へプチレジャーというあまりGWらしくない過ごし方をしてそうですが、逃走劇が繰り広げられている(?)しまなみ海道(サイクリングの聖地)周辺経済にも、どうやら影響が出ているようです。

mainichi.jp

厳しいようですが、長期間の逃亡による地域への影響は、松山刑務所のインシデント対応計画大きな原因があったものと考えます。過去に19回も脱獄が発生していて、今まではその計画範疇内でほとんどの逃走が収まっていたのでしょうが、マスコミが散々報じているように、『海を渡る手漕ぎボート』『空き家が1000軒』といった刑務所の周辺環境について、刑務所側は現況に応じたリスク分析をしていたのか?と言えば疑問です。

根本的なリスクが逃走後の捜索や検問手法のインシデント対応計画で解決出来ないというのであれば、”塀が無い刑務所”あるいはそれを動かす人(運用)の部分へメスを入れないと、また同様な事件は発生してしまうかも知れません。

 

 

脱獄のイラスト

 

更新履歴

  • 2018年4月29日AM(予約投稿)
  • 2018年4月30日PM 受刑囚逮捕を受けて一部修正
  • 2018年5月2日AM 逮捕後の報道を受けて一部追加