Fox on Security

セキュリティリサーチャー(インシデントアナリスト)で、セキュリティコンサルタントのキタきつねの独り言。専門はPCI DSS。諸々のお問合せ(取材、執筆、各種お問合せ等)はフォックスエスタ (https://foxestar.hatenablog.com/)をご覧ください。

お茶の水女子大のセキュリティを考える

平成最後の記事は、お茶の水女子大学付属中学校のセキュリティを取り上げたいと思います。

www.tokyo-np.co.jp

 

 秋篠宮家の長男悠仁(ひさひと)さまが通うお茶の水女子大付属中(東京都文京区)で、悠仁さまの机付近に果物ナイフのような刃物二本が置かれていた事件で、教室の机には生徒の名前が書かれたテープが貼られていたことが、捜査関係者への取材で分かった。警視庁は犯人がテープを見て、悠仁さまの席を把握した可能性があるとみて、調べている。

 捜査関係者によると、二十六日正午ごろ、学校正門の防犯カメラに青っぽい服にヘルメットをかぶった不審な男が出入りする姿が写っていた。この男とみられる人物が学校職員に通じるインターホンで「工事の者です」などと名乗っていたことも判明。警視庁は男が工事関係者を装って学校の出入り口を開けさせたとみており、建造物侵入容疑などで行方を追っている。

 刃物は二十六日昼ごろに発見され、学校関係者が通報した。当時は教室の外で授業が行われ無人だった。悠仁さまや同級生などにけがはなかった。

東京新聞記事より引用)

 

◆キタきつねの所感

元号が変わる間際に、皇位継承順位3位の悠仁親王の通う、お茶の水女子大学付属中学校に不審者が侵入し、刃物を置いていった。なんとも言えない気分にさせられた事件です。

いずれにせよ親王殿下やご学友の方々に何も無かったのが幸いですが、学校側(警備側)の『セキュリティ体制にミスがあった』のは間違いなく、こうした不正侵入の可能性を考えてなかった事が、”教室の机までたどり着かれてしまった”事を引き起こしたと言えるかも知れません。

 

捜査当局の情報が記事となっていくつか出ていますので、侵入経路については、大学の正門と考えて良いのだと思います。こうした不審者が侵入を考える際には、地図を下見して事が多いかと思いますが、女子大に併設された中学校だけに、大学側が詳細なキャッパスマップを出していたので、こちらを見てみると、正門から中学校のエリアまでは200mも無いことがわかります。

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正門のセキュリティチェックは、他の多くの教育機関と同じだった様です。東京新聞の記事へ掲載されている写真には、『入構される際は、身分証明書、学生証等の提示を行い、入構の許可を得るよう、お願いします お茶の水女子大学』という看板が映っていました。よくある外来者チェックの運用です。

Ochanomizu University Main Gate 01.JPG

参考:正門の写真(Wikiより引用)

 

しかし、関連記事を見ると、犯人らしき『ヘルメットをかぶった工事業者風の不審な男』が入門手続きをしたという記載は一切ありません

関連記事に出てくるのは、正門の防犯カメラが不審者を捕らえていた事しか書かれていません。

二十六日正午ごろ、学校正門の防犯カメラに青っぽい服にヘルメットをかぶった不審な男が出入りする姿が写っていた。

東京新聞記事より引用)

 

何が言いたいかと言えば、外部からの業者らしき人が、正門の正規の入門手続きを経ずに構内に入ってくる事を、第1のセキュリティゲートである(べき)正門の守衛エリアは、止め切れない運用だったのではないかと思うのです。(※恐らく、善意の運用=業者は入門手続きをするはず、という程度のゆるい運用で、いざ誰かが不正に入ってきたとしても、教員か学生ではないか・・・と善意のバイアスがかかって守衛が処理しているのではないでしょうか。

※自分の学生時代を振り返ってみても、学生証いつも確認された記憶はありませんし、社会人となってから大学に用事で言った際も、あまりその辺をうるさくチェックされて記憶が無いので、お茶の水女子大だけの問題という訳ではないのですが・・

 

つまり、お茶の水女子大付属中のセキュリティ境界線は、上の図でマークした”中学校のエリア”であったと考えられそうです。

セキュリティゾーニングで言えば、高セキュリティエリアと定義されるべき(?)”中学校のエリア”の境界線は、中学棟建物の入口(ロックされている)となりそうですが、関連記事を見ると、ここでいくつかのセキュリティ上の問題がありそうです。

 

学校正門付近の防犯カメラ映像などから、26日昼ごろ、青っぽい作業着姿のヘルメットをかぶった中年の男が「水道工事の者です」と告げて侵入したことが確認されている。男はその際、手袋を着用していたという。

朝日新聞記事より引用)

 

まずは、「水道工事を装った不審者」を中学内に入れてしまっている点です。きちんと工事予定あるいは作業許可を確認していれば、不審者を水際で止められた可能性は高かったかと思います。

 

少し気になる点が、別の日の朝日新聞の記事に記載があった「インターホン」で不審者に対してロック開錠している部分で、

 学校の正門付近の防犯カメラには、同日昼前、青っぽい作業着姿でヘルメットをかぶった中年の男が1人で敷地内に入る姿が映っていた。インターホンで「工事の者です」と告げたという。また、中学校の校舎付近の防犯カメラにもこの男が校舎に侵入する姿が映っていた

朝日新聞記事より引用)

 

また、防犯カメラの映像にはヘルメットをかぶった青色っぽい服を着た男が校内に侵入する姿が写っていたということですが、警視庁によりますと、男は入り口のインターホンを押して「工事の者です」と警備員に伝え、門を開けさせていたということです。

NHKニュース記事より引用)

 

 秋篠宮家の長男・悠仁さまが通われるお茶の水女子大学附属中学校に男が侵入し、悠仁さまの机などに包丁2本が置かれた事件で、学校のインターホンのカメラに水道工事を装った男の顔が写っていたことが分かりました。

TBSニュース記事より引用)

どうやらインターホン越しに犯人を確認した上で、開錠処理をしている様です。しかも開錠したのは、先生(素人)ではなく警備員(玄人のはず・・)の様ですので、不審者をセキュリティゾーンに入れてしまった事についての責任は重いと思います。

 

※自分卒業してきた学校での運用を考えると、工事を依頼したであろう教職員が居る「職員室に行く」事を前提に開錠したという可能性が高いのかな?と思いますが、それではゲート管理している意味は無いと思います。

 

こうした場合の対策として考えられるのが、

  • 正門警備室からの連絡が無い訪問は断わる
  • 事前に(工事)連絡を中学校側から受けている件以外の訪問は断わる
  • 中学校側からの連絡に加え、事前に工事業者から訪問予定者を申請させる(会社捺印)
  • 依頼主である当該職員に確認し、連絡が取れるまでは入らせない
  • 警備員(あるいは教職員)が作業中、常時同行する

といった事が有効かと思いますが、今回の事件ではこうしたチェック(運用)が規定化されてなかったようです。

 

この不審者が正門の防犯カメラに写っていたのが「正午ころ」、中学校内に侵入したのが「26日昼ころ親王殿下の机の上に刃物を置いた時間帯は、「教室外で授業が行われて(たまたま)無人だった」事から考えると、12時半頃まで行われていた授業の前(12時10分~30分ころ)だった事が推測されます。(無事に)逃げる時間も考えると、犯行時間は10-15分程度しかなかったのではないでしょうか。

 

この間に親王殿下の机が特定されているのは、事件報道当初から考えておかしいな?と思っていたのですが、関連記事を見て納得しました。

秋篠宮家の長男悠仁(ひさひと)さまが通うお茶の水女子大付属中(東京都文京区)で、悠仁さまの机付近に果物ナイフのような刃物二本が置かれていた事件で、教室の机には生徒の名前が書かれたテープが貼られていたことが、捜査関係者への取材で分かった。警視庁は犯人がテープを見て、悠仁さまの席を把握した可能性があるとみて、調べている。

東京新聞記事より引用)

 

Study中学受験サイトによると、親王殿下の通う中学(1年)は4クラス有りますので、1クラス30人前後が在籍していた事になります。119人の中から短時間でどうやって本命の席を見つけたのか?と疑問だったのですが、名前シールがあれば短時間でも見つけ出すのは容易だったでしょうね。

 

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Study中学受験サイトより引用

 

物理セキュリティの考え方の1つとして、構内施設が載った地図を外部に公開しない、居室が何であるかはっきりと分かるものは掲載しないというやり方があります。例えば「サーバ室」と居室の前に書いた表札があれば、外部の悪意ある侵入者はソコを攻撃しやすくなるかも知れませんが、どこが何の部屋だか分からない場合、攻撃成功率が低くなるという設計思想です。(※一部の重要施設向けのセキュリティ基準にはそうした規定があります)

 

今回の場合、内部に不審者が居ない環境(=セキュリティゾーニング)がきちんと構築されていれば、別段問題が無かったであろう名前シールが、悪意ある目的に使えてしまった事になります。学校が重要施設向けのセキュリティ基準までやる必要性は低いと思いますが、境界防御や外来者管理が不十分であるのならば、そこまで対策しなければいけないのかも知れません。

 

日本有数の文教地区に立地し、厳しいセキュリティ面にも気を配っていると思われていた、お茶の水女子大学キャンパス内での事件、見方を変えれば女子大自体も同じ様な不正侵入(最悪は殺傷事件)が成り立ってしまう事を含めて、セキュリティゾーニングであったり、外来者管理を大学側は考え直すべきかと思います。

 

お茶の水女子大学側は、事件を受けて以下の発表をしています。

小学校時代に問題がなかったという事で油断してしまったのかなと推測しますが、親王殿下が中学校に進学を決められた際に、改めてセキュリティ体制を見直す(リスクアセスメントする)事が必要だった気がします。

 

■公式発表 付属中学校における事件について

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#追伸(2019/4/30)昨晩容疑者が逮捕された様ですね。平成中に逮捕しようとする、捜査当局の意地を感じるニュースでした。

www.nikkei.com

 

 

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更新履歴

  • 2019年4月29日AM(予約投稿)
  • 2019年4月30日AM 容疑者逮捕を受けて追記