Fox on Security

セキュリティリサーチャー(インシデントアナリスト)で、セキュリティコンサルタントのキタきつねの独り言。専門はPCI DSS。

新幹線への防犯カメラ導入を考えてみた。

ITMediaの12月6日記事に、東海道・山陽新幹線で防犯カメラを増設する記事が掲載されていました。現在はデッキ部分に防犯カメラが導入されていますが、2018年3月完了予定だったカメラ設置を前倒しし、9割の社用で12月14日には、客室側にも防犯カメラを設置が完了するとの事です。

 

www.itmedia.co.jp

そもそも、この客室への防犯カメラ設置は、2015年6月に発生した新幹線内での焼身自殺事故(に巻き込まれて女性1名も死亡)への対策の1つです。岡山駅寸前でガソリンを車両内にばらまき火をつけ焼身自殺をはかり、巻き込まれた女性が煙を吸って死亡し、26人が重軽傷を負う事件でしたが、状況が分からずに車掌が現場の状況を適切に他の乗客の避難誘導に活かせずパニックが発生したので、有事の際にいち早く状況を確認できる手段として客室内も防犯カメラが設置されることになりました。

www.sankei.com

 

1年前倒しで防犯カメラを導入したJRは素晴らしいと思いますが、そもそもガソリンを車内に持込める部分に関しては、防犯カメラではそもそも防げませんので、次の抜本的対策を考えなければいけない次の事件が発生する可能性は残したとも言えそうです。

 

◆キタきつねの所感

調べてみると、この防犯カメラの設置が決まった2015年7月のJR東海社長会見で、私と同様な抜本対策についての記者からの質問がされていました。

--液体などの持ち込みについてはどうなっているのか。それと、先ほどから利便性を強調しているが、安全性を確保した上での利便性ではないのか

 柘植氏 「可燃性の液体は禁止だが、容器を含め3キログラム以内は持ち込み可としている。こういうルールが必要かは国土交通省などと連携して検討していきたい。また、安全性というのは鉄道事故を起こさないということだ。利便性は新幹線の命それは損なえない。念頭にあるのは手荷物検査だと思うが、これをやると利便性が損なわれる」 産経デジタル記事

液体などの危険物持込みによるテロ対策、という観点で見た場合、イベントや航空機などで用いられている様に、搭乗前の手荷物検査というのは十分に効果があると思います。ですが、新幹線の場合、改札近辺で手荷物検査をやると渋滞が起きるし(ピーク時は3分間隔で列車が発車している)、そもそも気軽にすぐ乗れるのが新幹線の特徴なので、(飛行機と競合する以上)その強みは、まだ残して置きたい・・・そんな意向が透けて見える回答だったかと思います。

実際に出来ないのか?という事については、やれば出来るだろうと思われます。少なくても中国の高速鉄道では実施されていますので。。。

news.searchina.net

これは、やはり「新幹線の安全神話が生きているからこその、防犯カメラのみの対策(リスク許容)という選択なのだと思います。1964年の開業以来、2015年の事件が初めての火災事故だったことから分かる通り、そこまでやらなくてもまだリスクは抑えられる、そういった感覚がJR側にあるのだと思います。

将来的には2004年スペインの列車爆破テロ、2017年4月のロシア地下鉄の爆発、2017年9月にはロンドン地下鉄での爆破テロなども発生から考えても、東京五輪に向けて・・だけではなく、今後も日本の新幹線の安全神話というものがずっと続くとは思えません。

では、どう考えていくのが良いのか?その鍵は、2015年7月にJR東海の社長が記者会見で記者さんが質問した

--ソフトウエアで不審な人を検知するような機能がある防犯カメラもある。その採用は考えているか

 柘植氏 「便利で防犯力の高まるものが比較的安価であれば導入していく。今の段階ではそこまで考えていないが」  産経デジタル記事

ここにあるのではないかと思います。プライバシーの問題など、クリアすべき問題はありそうですが、新幹線の改札から不審人物をチェックする(AI搭載での不審物候補の警告や、犯罪者DBとの照合等々)プロアクティブな防犯の仕組みがあれば、たとえ手荷物検査が出来なくても、高いセキュリティ体制の構築が実現できるのではないでしょうか。中国の高速鉄道で導入されている様な、チケット購入時の本人確認なども合わせて検討すれば、(けん制効果も含め)乗車前からの防御網が構築できそうな気がします。

 

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更新履歴

  • 2017年12月10日 AM(予約投稿)