Fox on Security

セキュリティリサーチャー(インシデントアナリスト)で、セキュリティコンサルタントのキタきつねの独り言。専門はPCI DSS。

経理担当が裏切らないとは限らない

システム管理者だけではなく、経理担当の不正行為にも”ゼロトラスト”が必要になってきている様です。

www.asahi.com

 仕事で使うと装って旅行会社から新幹線のチケット約2800万円分をだまし取り現金化して私的に使ったとして、NHKの子会社NHKグローバルメディアサービスは10日、40代の男性社員を懲戒解雇にし、発表した。

 同社によると、社員は7~10月、取引先プロダクションの架空の出張名目で85件約2800万円分のチケットを旅行会社から受け取り、JRの窓口で払い戻して、自身のローンの返済などにあてていたという。代金は未払いで、グローバル社が弁済した。

 

公式発表(NHKグローバルメディアサービス)2021/12/10

社員の懲戒処分について (魚拓

 

キタきつねの所感

NHKの視聴料が子会社社員の”家”に化けていた、こう聞くと”視聴料の軽減”あるいはNHKの改革”を求める方も多くなってしまうかも知れません。

 

架空出張は、ひと昔前にはよく見聞きしましたが、チケット電子化や領収書添付の厳格化などの影響もあると思いますが、最近ではあまり大型の”インシデント”を聞いた記憶がありません。

そんな中、NHK子会社の社員はどの様な手法で「家を建てた」のかが気になって各社の報道を見ていくと、気になる記載をNHKの”記事に見つけました。

www3.nhk.or.jp

庶務や経理を担当していて上司の承認を得ずにチケットを申し込み、請求書も旅行会社の窓口で自分で受け取っていたということです。

NHK記事より引用)

 

経理担当が「裏切った」という事だった様です。今回懲戒免職処分を受けた社員は、40代の男性と発表されていますので、一般企業で言えば課長クラス、現場での裁量権を十分に持っていた事が推測されます。

1.懲戒処分 ㈱NHKグローバルメディアサービス
社員 (男性・40 代)

公式発表より引用)

 

IT部門の管理者もそうですが(日本企業の終身雇用制に基づく”性善説運用”において)、重要なポジションは、候補者の人となりを多面的にチェックしてから任命されてる事が多いかと思います。

特に金銭を扱う経理などの部署では、そうしたチェックはより厳しいのかと思いますが、「家のローン」(金銭的欲求)という誘惑に負けてしまったという事だと考えると、性善説運用が機能しなくなってきている事について、他の企業も留意すべきかと思います。

 

朝日新聞の記事では、2017年から2021年7月まで犯行が3年以上”発覚しなかった”、つまり企業側のチェックが働かなかった事が書かれています。その結果が約1.5億円分の累計不正だった様です。

 2017年から今年7月までに同様の方法で購入、現金化したチケットは計約1億5千万円分にのぼり、代金は新たなチケットの払い戻しなどで支払ってきたといい、今回の未払い分も「いずれは返すつもりだった」と話しているという。

 

関連記事を読むと、一部の支払いには、新たな不正で入手したチケット払い戻し金が使われていた、つまり自転車操業をしていたと想像される内容が書いていますので、この1.5億円の全てが会社にとっての実質的な損害ではなく、最後に「破綻して」払えなくなった逮捕容疑の2,700万円が損害合計なのかも知れませんが、いくつものチェック機能が働いてなかった事が、この珍しい内部不正インシデントに繋がった気がします。

 

実際にはチェック出来なかったであろう点も含め、ざっと考えられるポイント(≒インシデントにもう少し早く気づけた可能性がある”関門”)は以下の通りです。

※以下、想像が過分に入ります

 

NHKグローバルメディアサービス

・請求書処理を1名で運用させせていた

・不正をチェックする監査が行われてなかった(又は見過ごされていた)

 

■JRの窓口

・あきらかに大量のチケットの払い戻しが繰り返されていた(のを当然の事として処理した)

 

■旅行代理店

・請求書を常に当該社員に渡していた(旅行会社の窓口で直接受け渡していた)

 

当然の事ながらNHKの子会社側(のチェック不備)が、一番責任が重い気がしますが、JR東日本は恐らく(渋谷駅近辺のみどりの窓口)で多量に旅行代理店発行の切符を払い戻ししていた事に気づけた可能性があると思います。

※だからと言って正常な払戻し処理ですので止められなかったとは思いますが・・・

 

また、恐らく当該社員から直接要請されたのだと思いますが、請求書を旅行代理店側の窓口で「受け取っていた」回数が多いのであれば、恐らく部署宛の請求書郵送を「断っていた」のだと思われますので、”何かおかしい”事に気づけたかも知れません。

※根拠はありませんが、旅行代理店は、他の正常の出張の手配をしていた旅行代理店と『違う』ったのではないかと想像します。でなければ、どこかで当該社員がハンドリングを間違えて、他の経理担当に請求書が廻されてしまう”事故”が発生していた気がします。

 

社員が裏切らない事を前提とした”古き良き性善説運用”は危ない

 

付き合いのあった海外の監査官が”日本的運用の限界が近い”事を10年以上前から度々予言していましたが、日本企業は自社の運用を再点検すべき時期が来ているのは間違いない様です。

 

 

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 金券ショップのイラスト

 

更新履歴

  • 2021年12月12日 AM