Fox on Security

セキュリティリサーチャー(インシデントアナリスト)で、セキュリティコンサルタントのキタきつねの独り言。専門はPCI DSS。

現代版カンニングは防ぎきれない

大学入試共通テストにおけるSNSを使ったカンニング事件、少し調べてみると当該受験生は計画的に試験のカンニングを企てており、来年以降の試験に重い課題を残したと言えそうです。

www.jiji.com

 大学入学共通テスト初日の試験中に「世界史B」の問題が流出した事件で、出頭した大阪府の女子大学生(19)が家庭教師紹介サイトの利用を認めた上で、「自分に自信がなかった。どうしようかとなり、思い付いた」と話していることが28日、捜査関係者への取材で分かった。

 スマートフォンを使い、インターネット電話スカイプで試験問題の画像を送信したといい、警視庁は偽計業務妨害容疑で詳しい事情を聴いている。
 捜査関係者によると、香川県に滞在中の女子大学生は27日午前、家族に付き添われて県警丸亀署に出頭した。泣きながら経緯を説明し、動機について「東京の一流私立大学に行きたかった」と話しているという。
 関係者によると、世界史Bの問題は試験中の15日午前11時ごろに撮影され、流出した。試験問題の画像を受け取った男子大学生は、家庭教師紹介サイトで知り合った高校2年生を名乗る人物から送信されたと説明。共通テストの問題とは知らず、試験終了時間までに解答を送った。

 

今更この事件?と思う方も多いかも知れませんが、家庭教師マッチングサイトや大学入学共通テストの”脆弱点”を突いたその手法は学ぶ点が多々あるかと思います。

 

まず驚いたのが、ネット上でも多くの方が指摘していましたが、当該受験生は19歳の『現役の女子大学生』つまり、仮面浪人であった事です。

警察の事情聴取に対し「一流私大に行きたかった」と語っている事から、レベルの高くない大学に在籍していた事が推測されます。

現役生とは異なり、それなりに準備をしてきたはずですが、カンニングに加担させた大学生とのマッチングサイトでの(体験授業依頼の)やり取りは、12月初旬であったとされる事を考えると、”つい魔が差した”・・・のではなく計画的であったと言えます。

www.tokyo-sports.co.jp

サイト運営会社によると、問題流出にかかわった疑いがある人物は昨年12月初め「高校2年生」を自称してサイトへ登録。複数の学生に連絡先を教えるよう求め、体験授業を受けたいと要望していた。

 

各社の報道を見ると東大生らに数名(以上)に声を掛け、Skypeで試験問題(世界史Bの試験用紙画像)を送信し、知らずに解答をさせたとされています。

Skype匿名利用も可能なので、もしかするとそうした利用だったのかも知れません。

騙された形となった東大生らは、家庭教師マッチングサイトで「高校2年生」を名乗る相手から「家庭教師の実力を試したいから試しに解いて欲しい」と事前に依頼され、大学共通テスト当日の試験時間中に問題が送られてきた様です。

既にYouTubeからは映像が消えているのですが、日テレnews zeroの取材を受けた、(被害を受けた)東大生のマッチングサイトのページが以下の様に報じられていました。

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産経新聞の記事では、このサイトの初期仲介部分に関して、1980円を支払うと30日間に(家庭教師候補の先生)何人にでもメッセージのやり取りができる、という金額と期間のヒントが書かれていました。

www.sankei.com

 

この条件で探してみると、まさに条件通りの家庭教師マッチングサイトが見つかりました。(※実名は出しませんがリンク(↑)を貼っておきます)

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※画像も同じなのでまず間違いないかと思います

 

こちらのサイト、先生の方は全員在籍確認済なのに関わらず、

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依頼をしてくる生徒(親御)さんの方は、名前、電話番号、メールアドレスしか必要ありません。

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禁止行為の注意ページを見ると偽名は禁止となってはいますが、(推測になりますが)当該受験生は、名前や電話番号は偽名メールアドレスはフリーメールを使っていたのではないでしょうか。

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産経新聞には、この家庭教師マッチングサイトが生徒側の本人確認を実施していなかった事が書かれていました。

www.sankei.com

従来の家庭教師派遣会社などであれば、契約を結ぶ際に生徒の家庭に会社側が直接訪問して確認を取っていた。今回のマッチングサイトでは名前とメールアドレス、携帯電話の仮登録をした後、クレジットカード情報などを入力して本登録する。だが、身元確認ができる書類の提出などは求められておらず、同サイトは「今回の件を受けて今後検討する」としている。

 

とは言え、当該受験生は1980円の本会員登録をしている(そうでないと騙された東大生らとコンタクトを取れない)はずなのですが、クレジットカード登録から本人(両親)特定がされると思ったのですが、「等」の部分に抜け穴がありました。

 

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銀行振込が可能です。この場合、名前(偽名)だけ合っていれば本登録まで可能という事になります。

また、カード情報非保持という観点から仕方が無い部分ではありますが、カード情報をECサイト(家庭教師マッチングサイト)側で持っておらず、決済代行会社に任せている事も書かれているので、仮にクレジットカード決済をしていたとしても、本人(両親)特定までは少し時間がかかったかと思います。

 

家庭教師マッチングサイト側も、こうしたイレギュラーのサイトの使われ方がされるとは想像してなかったと思いますが、登録で電話番号を取っている訳ですから、SMSで認証するといった事が出来たはずです。

本人確認行為を挟むと個人情報を渡す事に抵抗感を感じる生徒(両親)がいて、利用のハードルが高くなる事を恐れて、”本人確認をしない”というポリシーだったのかと想像しますが、偽登録による被害を、先生側(家庭教師側)に潜在的に押し付けた事に他なりません。

そう考えると、家庭教師マッチングサイト側がこの脆弱点を放置していた事が、今回のインシデントの遠因になった気がします。

 

このインシデントの直接原因は、当然の事ながら大学入試会場で”不正行為を止められなかった”事になる訳ですが、そこも関連記事から考えてみます。

 

似た様な過去事例は、2011年にインターネットの掲示板に”試験問題が投稿された”事があります。当然の事ながらそれ以降、対策は強化されたはずですが、今回どうしてスマホ利用が見つからなかったのでしょうか?

 11年3月には京都大など4大学の入試問題が試験中、インターネット掲示板ヤフー知恵袋」にスマホで投稿される事件が発生。仙台市の予備校生=当時(19)=が偽計業務妨害容疑で逮捕され、後に家裁で不処分となった。
 同センターは共通テストの受験生に対し、机の上でスマホの電源を切った後、かばんにしまわせるなどし、試験中は身につけないよう求めている。

JIJI.COM記事より引用)

 

当該受験者は、シャッター音を嫌ってSkype動画モードで撮影し、静止画Skype複数の東大生ら(被害を受けた家庭教師候補者)に送信したとされています。

大学入学共通テストの試験中に「世界史B」の問題が流出した事件で、関与を認めた女子大学生(19)は「スマートフォン上着の袖に隠して(試験問題を)撮影した」と話した。

JIJI.COM記事より引用)

 

まず上着の袖」に隠すという行為についてですが、コロナ禍ならではの仕方が無い事情が背景にはあった様です。

www.iza.ne.jp

大学入試センターなどによると、共通テストでは試験会場へのスマホの持ち込みが可能だが、電源を切って持参したバッグなどに入れる必要があり、使用すると失格となる。

今回、女性は上着スマホを隠していたが、試験会場内では上着の着用は禁止されておらず新型コロナウイルス感染対策で窓を開けた換気が行われているため、防寒対策として上着を持ってくることが呼びかけられていた

 

上着着用が推奨だったとすると、試験監督官の巡回の目を潜ってしまえば、残念ながら死角は確保できる状況だったと推測されます。

ここで、19歳の仮面浪人という立場も影響した可能性を感じます。関連記事には記載が一切ありませんので勝手な推測になりますが、去年もコロナ禍だった事から、当該受験生が去年も大学共通テストを受験していた場合、この「脆弱点」を把握していた可能性があるのではないでしょうか。

 

最新電子機器を使ったカンニング行為は、スマートグラスや電子辞書、翻訳機など電波を使わないタイプのものまで含めて、色々考えられる、技術も日進月歩ですので、簡単に対策できるものではないかと思います。

 

今回の様な携帯回線を使う手口の場合、対策として例えば一部のコンサート会場や映画館等に設置された『通信抑制装置』を使うという事も考えられなくは無いと思いますが、試験会場によって電波環境が違う事や、免許が必要な事大学入試センター(監視員)側の連絡網も使えなくなる、あるいは周辺住民にまで影響を与える可能性がある事を考えると現実的ではないかと思います。

www.soumu.go.jp

 

と言って、試験監督官の人数や巡回を増やす、というのもこうした巡回が頻繁に行われる事で「気が散る」受験生もいたりする事や、英語のヒアリング試験等では「巡回の足音・物音すら機微な問題」である事を考えると、劇的に強化する事は難しいかと思います。

 

全てを厳しい監視環境下の会場やオンラインテストに寄せるやり方はコロナ禍では有効な手法かと思いますが、現在の受験費用ではコストの折り合いがつかない可能性も高く、自宅環境もかなり制限を受けますので、必要な環境を整備できないと不公平が発生する事を考えると、これは現実的ではないかも知れません。

www.pearsonvue.co.jp

 

もう1つは、大学のテストであるような知識ではなく、思考力を問う『論文タイプ』の選考テストにしてしまうという方法も考えられますが、急な変更による受験生への負荷や、採点基準のバラつきを押さえるのも難しい事もあり、共通テストではすぐに実現するのは困難かと思います。

 

AIを使った技術がもっと進めば、もっと有効なカンニング防止策が出てくると思いますが、無い知恵を絞って考えてみても、現在の対策を強化する程度の案しか思いつかず、現代版のカンニングを有効に防ぐ術を考えられませんでした。

 

文科省でも同様な”結論”に達するかも知れませんが、そういう時こそ、家庭教師マッチングサイトを使って、優秀な若い頭脳に「解答を求めてみる」事を強くお勧めします。

 

 

余談です。当該受験生「高校2年生」と偽った点や、「試しに解いて欲しい」と依頼した(ソーシャルエンジニアリング手法)・・・大阪在住なのに出頭は香川県の丸亀に出頭・・・知人に見つからないであろう地域の警察に出頭する所など、ある意味才能を感じます

 出頭した大阪府の女子大学生(19)が(中略)


 捜査関係者によると、香川県に滞在中の女子大学生は27日午前、家族に付き添われて県警丸亀署に出頭した

JIJI.COM記事より引用)

 

セキュリティ領域で言うと、例えば、レッドチームやペンテスター(侵入テスター)の素質がある様に感じます。まだ自分の犯行を隠す術を身につけてない(外からみると危なっかしい)点はありそうですが、モノゴトの脆弱点を探す能力に長けていると思うので、将来そうした道に進むと成功するのではないでしょうか。

 

本日もご来訪ありがとうございました。

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 カンニングをしている男の子のイラスト

 

更新履歴

  • 2022年2月1日 AM