Fox on Security

セキュリティリサーチャー(インシデントアナリスト)で、セキュリティコンサルタントのキタきつねの独り言。専門はPCI DSS

時系列で見る樋田容疑者の逃走

樋田容疑者の逃走劇。デジタルセキュリティとは関係はありませんが、色々と面白い情報が出てきている気がします。

mainichi.jp

 捜査関係者によると、8月28日、香川県東かがわ市内の大型電器店からひげそり(約1万5000円相当)が盗まれた。当時、香川県警は防犯カメラを確認するなどしたが、容姿が手配写真とは違っていたため、樋田容疑者と特定できなかった山口県周南市の道の駅で9月29日、万引きしたとして樋田容疑者が現行犯逮捕され、その後、自転車旅行で四国を周遊していたことが判明した。香川県警が改めて調べたところ、ひげそりの空き箱に残っていた指紋が、樋田容疑者のものと一致した

 また、樋田容疑者が逮捕時に持っていたリュックサックは、神戸市垂水区の商業施設「三井アウトレットパークマリンピア神戸」内のアウトドア用品店で買ったとみられることも分かった。8月19日に販売された記録が残っており、店の従業員も「(容疑者と)似た人物に売った」と話した。同じ施設にある別のアウトドア店でも、この時期、樋田容疑者が所持していたものと同じ種類のテントが盗まれており、府警は樋田容疑者が盗んだ疑いがあるとみている。

毎日新聞記事より引用)

 

◆キタきつねの所感

時間がかかるので、いつもやっている訳ではないのですが、私はこうした大きな事件を考える時にはタイムラインが大事だと思っています。今回の逃走に関して、逮捕後に色々と情報が出てきて、逃走ルートも少しづつ判明しています。

改めて各メディアの情報をまとめてみると、警察が樋田容疑者を追い詰めるチャンスはいくつかあった様に思えます。

日時 場所 人数 出来事 警察の動き
(樋田容疑者を追い込めた可能性)
2018/8/12午後8時 大阪府冨田林市 1 冨田林署から盗んだ赤い自転車で逃走 大阪府警は初動に失敗
2018/8/12午後11時 羽曳野市 1 黒いミニバイクが盗まれる  
2018/8/13-15夜間 大阪市 1 黒っぽいミニバイクによるひったくり事件が発生  
2018/8/15 大阪市西淀川区 1 羽曳野市で盗まれたかばん発見  
  淡路島 1 自転車で一周?
(後に同行した男性の話だと、淡路島へはフェリーで行ったと説明)
 
2018/8/16       大阪府警が、樋田容疑者の入れ墨図を公開
2018/8/19       大阪府警が樋田容疑者の変装を想定した8種類の似顔絵公開。情報提供呼び掛け。
2018/8/19 神戸市垂水区 1 三井アウトレットパーク マリンピア神戸」内のアウトドア用品店でリュックサックを購入。別な店からテントなど2点が盗まれていた。 アウトドア用品店店員が樋田容疑者を視認できず。店舗従業員は(逮捕後)容疑者と似た人物に売ったと話した。
2018/8/23 しまなみ海道 1 四国に向かう姿が防犯カメラに映る  
2018/8/24 愛媛県松山市 1 愛媛県庁を訪問、自動車新文化推進化を訪れサイクリング用の地図を貰い、「日本一周中」と印刷された紙を職員に作ってもらう 愛媛県庁職員が樋田容疑者を視認できず
2018/8/25 香川県観音寺市 2 道の駅で行動を共にした44歳男と出会う  
2018/8/26夕方 香川県三豊市 2 お遍路で弥谷寺を参拝
お遍路の笠を被って「これだけで寺が無料で泊めてくれる」と同行者に話す
 
2018/8/28   1 同行の男性と別れる  
2018/8/28 香川県かがわ市 1 大型電器店からひげそりが盗まれる。

香川県警は防犯カメラを確認したが、樋田容疑者と特定できず。

逮捕後に改めて調べるとひげそりの箱の指紋が樋田容疑者のものと一致

2018/8/29午後4時 徳島県海陽町 1 樋田容疑者と見られる男と30分併走した男性「一般の人の家に泊めてもらい、酒も振る舞ってもらった。これまで出会った人に食べ物もよく貰ったし、お金も3000円くらい貰った。四国の人は優しい  
2018/8/30午前 高知県田野町 1 道の駅を訪問、山口県の夫婦と会話
「ここら辺りのウナギは美味いね」と店員に話しかける
 
2018/8/30夜11時 高知県須崎市 1 道の駅で警察官に職務質問を受け、偽名で答える。 警察官は「防犯登録番号」の照会をしなかった
2018/8/31 高知県四万十町 1 目撃情報  
2018/9/1 愛媛県今治市
無人島・見近島)
1 キャンプ場で2泊野宿。  
2018/9/2 松山市 1 愛媛県庁を再訪問。謝意を伝える  
2018/9/3早朝6時 高速船にて移動 1 愛媛県今治市広島県尾道市因島の高速船 芸予汽船今治港-士生港)職員が樋田容疑者を視認できず
2018/9/3 広島県三原市 2 行動を共にした男性と再度合流  
  広島県竹原市 2 釣りをした  
2018/9/10 広島県呉市 2 大和ミュージアムに立ち寄る  
2018/9/11 広島市 2 原爆ドームを観光、近くの公園で野宿  
2018/9/13- 山口県岩国市 2 錦帯橋を観光  
2018/9/18-25 山口県周防大島町 2 道の駅で宿泊、住民と交流(記念撮影も)  
2018/9/26 山口県周防大島町 2 竜崎温泉ちどり(無料開放日)で温泉を堪能  
2018/9/27-28 山口県上関町 2 道の駅で野宿。(道の駅の)防犯カメラに弁当盗む姿が映る  
2018/9/28 山口県周防市 2 道の駅で万引きした容疑で現行犯逮捕  

 

その最も大きなチャンスは、私は神戸でのアウトドアショップだったと思います。この時点では大阪市内に重点捜査範囲が引かれており、兵庫県神戸市まで警戒網が引かれていれば、樋田容疑者の風貌が変わる(日焼け、サングラス、坊主)前に捕まえられなかったまでも、捜査網を変えられた可能性があると思います。後に、アウトドア用品店の店員が「容疑者に似ていた」と話しているので、この情報を警察が早めに捕らえられていれば、あるいは別な店からテントが盗まれた後、防犯ビデオをチェックする事が出来ていれば、もしかしたら案外早く捕まえる事ができたかも知れません。

時系列を見ると、次に警察にチャンスがあったのは、愛媛県庁かも知れません。しまなみ海道が自転車客に監視が甘い所は今後見直される可能性があるかと思いますが、対面で樋田容疑者と相対した愛媛県庁職員は2度、樋田容疑者と対面で会っていて、話しています。警察でもなく、行政窓口の職員にそこまで求めるのは酷なのかも知れませんが、逃走2週間程度の早い段階であったが故に、逃走中の容疑者を見出せた可能性はあった気がします。

 

次に香川県警が、髭剃り(その他にも盗んでいそうですが・・・)万引きの防犯ビデオチェックをしているので、特定できなかったのは、既に容疑者の風貌が変わっていたであろう為に難しかったのだろうと思いますが、ここもチャンスだったと思います。

樋田容疑者を警察が主導で捕まえられた最大のチャンスは、高知県警職務質問だったのは間違いないかと思います。この時に自転車の番号照会をしていれば・・・というのは、四国に逃げている可能性があるとの情報が無かったが故に、現場の警察官の方には難しかったのかも知れませんが、樋田容疑者が「捕まらない」と変な自信をつけさせ、観光地を廻る余裕まで出てしまった要因になってしまった気がします。

 

もう1箇所、最新の事件報道によると、四国に渡る際はしまなみ海道を自転車で渡った様ですが、本州への戻りはフェリーを使っている事が分かったようです。早朝始発便を使う点が、クレバーな樋田容疑者らしいなと思いますが、チケット販売の対面販売員が、手配書と比較できたチャンスはあったと思います。普通はこうした公共機関で逃走中の犯人が警戒網に捕まる事が多いのですが、うまく逃げられたのは、警察に対する苦い教訓となったと思います。

 

改めて時系列で見ると、大体の逃走ルートは分かりつつあるのですが、神戸~淡路島の所だけ情報が出てきていないのは気になります。特に淡路島に関しては樋田容疑者が一周したと話しているだけで監視カメラ映像であったり、道の駅での目撃情報といったものが出てきていません。推測にしか過ぎませんが、この期間を一緒に過ごした(匿った)第三者が居てもおかしくないかなと思います。

 

時系列以外では、10月10日に、大阪府警は樋田容疑者が逮捕された際の所持品写真36点を公開しています。

大阪府警察 | 加重逃走事件被疑者の所持品に関する情報提供のお願い

 

その多くが逃走中に万引き等で盗まれたものと考えられていますが、この所持品を見ると改めて、樋田容疑者は事前に色々考えてから逃げていた事が想像できます。

 

まずは風貌を隠す帽子、サングラス。

1 キャップ帽子 4 サングラス

30 サングラス1 34 サングラス1

何故かサングラスが3つあります。普通に考えて1つで良いと思うのですが、もしかすると、警察捜査(防犯カメラ対策)で追跡しにくくと考えたものかも知れません。

 

そして今回の逃走で見事に警察を出し抜いたのが、自転車。それも日本一周を目指す設定です。その重要なアイテムとなったのが、こうした衣服かも知れません。

8 サイクルTシャツ 9 サイクルTシャツ

同行者は、普通より衣服が多かったと語っていましたが、こちらも捜査かく乱を狙った考えかも知れません。

 

警察を出し抜いたといえば、バリカンの果たした役割は大きかったかと思います。

31 バリカン

 

それ以上に大きかったかも知れないのが、ワンセグテレビかも知れません。捜査情報が定期的に公開されていましたが、写真や似顔絵に応じて風貌を変えるなど、、捜査対策はこうしたテレビからの情報を元に考えていた可能性が高い気がします。

29 ワンセグテレビ1(ラジオ付)

 

 

弁当の万引きなどを考えると、あまりサバイバル料理では使われなかった気がしますが、長期逃走を考えて、(持ち運びが不便そうな)片手なべやガスバーナー2種(なぜか2つ)、クーラーボックス、シュノーケルもありました。

17 片手鍋 19 ガスバーナー1

20 ガスバーナー1 32 トーチバーナー1

27 クーラーボックス 35 シュノーケル1

 

テントは今回の捜査を大きく長引かせた重要アイテムとなったものと思いますが、道の駅を含めた野宿・宿泊によって警察が警戒していたと思われるホテル、漫画喫茶等の固定施設利用を避けるのに成功した主要因だと思います。

28 テント2

 

結論から言えば、前回記事と同じく、四国の自転車文化、お遍路さんに対する、あるいは広島・山口田舎の人の良さを最大限に利用したのは間違いなく、日本の良い文化でもあるホスピタリティ精神を上手に利用(悪用)したと言えそうです。

 

foxsecurity.hatenablog.com

海外逃亡のイラスト(島国)

 

更新履歴

  • 2018年10月14日AM(予約投稿)