Fox on Security

セキュリティリサーチャー(インシデントアナリスト)で、セキュリティコンサルタントのキタきつねの独り言。専門はPCI DSS。

SNS利用の自由と制約

海上自衛隊の艦船乗組員がSNSで機密情報を漏えいしたという記事が気になりました。

this.kiji.is

 

 海上自衛隊は18日、航海中の艦艇の位置情報をツイッターに投稿したとして、掃海母艦「うらが」乗組員の20代の男性1等海士を停職10日の懲戒処分とした。「ツイッター内で高評価を得られれば良いと安易に考えてしまった」と話している。

 海自横須賀地方総監部によると、1等海士は2018年10月15日、航海中に艦艇の位置情報を投稿した。同12月に海自内で書き込みが発覚し、調査に行為を認めた。

共同通信記事より引用)

 

キタきつねの所感

この記事自体は小さなベタ記事という扱いで、気に留める方は少ないかも知れません。しかし自衛隊という、厳しい規律が求められる組織からの情報漏えいと考えると、ヒヤリハット(1:30:300)というよりも、もう1段階上の軽微な事故(1:30:300)と考えた方が良い気がします。

 

少し疑問だったのが、『作戦行動中に乗組員がSNSを使える』という部分。ひと昔前の戦争では敵対国の艦船の位置情報を把握する為に、レーダーや哨戒機を駆使して(相手より先に)攻撃対象を探すという事が求められていました。

現代戦においても、SNSで艦船の位置情報が容易に特定出来るのであれば、これほど楽な事はないかと思います。

 

探してみると、SNS解放に関する背景情報が書かれた朝日新聞の2018年記事がありました。

www.asahi.com

 

  自衛隊の中でも特に人手不足が深刻と言われるのが海上自衛隊だ。演習などで数カ月もの遠洋航海に出る間はメールやSNSで外部との連絡が取れず、若者に敬遠される傾向にある。その影響からか、海自では15年に5倍だった一般曹候補生の倍率は、18年に2・5倍に半減。自衛官候補生の倍率も6倍から4・6倍に減った。海自幹部は「今の低い倍率では、隊員の質を維持することが難しくなる」と漏らす。

 海自は、今年5月から私有携帯電話のメールを艦内のサーバーにため、定期的に外部へ送信できるようにした

(朝日新聞記事より引用)

 

SNS(私用スマホ)利用制約を外していく事は、今の時代仕方が無い事なのかと思います。

しかしSNS利用解禁に伴う、機密管理に関する教育が不足している現状が浮かび上がってきます。過去の記事を探してみると、今回の事例以前に2件の同様な事例と、1件の規律違反が報道されていました。

 

■2020年3月4日(護衛艦ひゅうが)

SNS上に部隊の行動などの情報を公開(40代1等海曹)

www.47news.jp

 

■2019年6月24日(護衛艦あさぎり)

非公表の艦隊入出港の情報をフェイスブックに投稿(2等海佐・艦長)

www.kanaloco.jp

 

 

■2018年9月13日(会場自衛隊航空集団司令官)

当直室にスマホを持ち込み不倫相手と通話や通信をしていた(2等海尉

 ※この件はSNS規制の緩和とは直接的には関係ありません

www.chibanippo.co.jp

 

艦内のメールはどんな通信手段で、どこを経由して送信される運用になっているのかも、個人的には(他にも脆弱性があるのではないかと)気になる所ですが、本題とは関係が無いので割愛します。

今回の事例への対策を想像すると、メールやSNS情報を、まとめて送る(即時性が求められない)のであれば、艦内の処理で位置情報(EXIFGPS情報)を削除する仕組みは構築可能だと思います。また、SNSや文章中に写真に機密情報が入ってしまっているかどうかについては、AI等の(機密情報)検索をデータ一括送信前に行う事も有効かと思います。

 

予算的にこうした対策が厳しいのであれば、運用面で対応する事も考えられます。

例えば利用するSNSを絞り遠洋航海(作戦行動)前にTwitter等の位置情報がオフ設定になっているかを確認するといった人的チェックや、SNSフォロワーの中に「海上自衛隊監視部門のアカウントを入れる」といった運用も、けん制という意味で有効かと思います。

 

 

余談です。今回の事例は海上自衛隊内部の話ですが、外部として、艦船情報をマニアの方がSNSに掲載しているケースが結構あります。これはAISデータを使って艦船の動きを見て、現地で写真を撮っているケースが多い様です。

 

 Twitterでの投稿例

f:id:foxcafelate:20200321122613p:plain

 

 

航空情報でも同様な仕組みがあり、フライトレーダー24の様に、艦船の動向が追跡できるサイトとして、MarineTrafficというサイトがあります。

www.marinetraffic.com

 

AISを搭載している艦船は、少なくても日本近海であれば見つける事ができます。※下記参照

www.itmedia.co.jp

 

今回の事例で問題となった、作戦行動中の艦船の情報は、自衛隊という特性上、やはり機密情報になるのかと思います。(恐らくAISを搭載した自衛隊所属の艦船も作戦行動中は発信してないはずです)

 

 

本日もご来訪ありがとうございました。

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 海軍カレーのイラスト

 

更新履歴

  • 2020年3月21日 AM(予約投稿)