Fox on Security

セキュリティリサーチャー(インシデントアナリスト)で、セキュリティコンサルタントのキタきつねの独り言。専門はPCI DSS。

ソフトバンク vs 楽天の場外戦

1月に”産業スパイ”案件として話題となった件で、ソフトバンク楽天モバイルを訴えた記事が気になりました。

www.softbank.jp

ソフトバンク株式会社(以下「当社」)は本日、楽天モバイル株式会社(以下「楽天モバイル」)および楽天モバイル元社員に対し、同社員が当社を退職時に当社から持ち出した営業秘密の利用停止および廃棄等、ならびに約1,000億円の損害賠償請求権の一部として10億円の支払い等を求める民事訴訟を東京地方裁判所へ提起しましたのでお知らせします。なお、請求額については、今後の審理の状況に応じて拡張することがあります。ソフトバンク株式会社(以下「当社」)は本日、楽天モバイル株式会社(以下「楽天モバイル」)および楽天モバイル元社員に対し、同社員が当社を退職時に当社から持ち出した営業秘密の利用停止および廃棄等、ならびに約1,000億円の損害賠償請求権の一部として10億円の支払い等を求める民事訴訟を東京地方裁判所へ提起しましたのでお知らせします。なお、請求額については、今後の審理の状況に応じて拡張することがあります。

この訴訟提起に先立ち、当社は、東京地方裁判所に対して、2020年11月27日付で、楽天モバイルに対する証拠保全申立てを行い、同年12月10日付で同社に対する楽天モバイル元社員が当社から持ち出した営業秘密の利用停止などを求める仮処分命令申立てを行っています。また、当社は、同裁判所に対して、2021年1月15日付で、楽天モバイル元社員の資産を対象として仮差押命令申立てを行い、同年2月8日付で、同人に対する同人が当社から持ち出した営業秘密の利用停止などを求める仮処分命令申立てを行っています。
当社は、当社が営業秘密として上記手続において証拠保全を求めていた電子ファイルが、楽天モバイルが業務上利用するサーバー内に保存され、かつ、他の楽天モバイル社員に対して開示されていた事実確認しています。なお、楽天モバイルは、これらの電子ファイルについて裁判所および当社に提出後、全て廃棄したと主張しています。

 

公式発表(ソフトバンク

楽天モバイルへ転職した元社員の逮捕について(2021/1/12)

楽天モバイルと楽天モバイル元社員に対する訴訟を提起 1,000億円規模の損害賠償請求権を主張(2021/5/6)

 

公式発表(楽天モバイル

従業員の逮捕について(2021/1/12)

当社に対する訴訟の提起について(2021/5/6)

 

キタきつねの所感

激しいバトルは野球の世界だけではなかった様です。1月の”産業スパイ”(内部不正)事件に伴う場外バトルは、恐らく最高裁まで決着がもつれる延長戦になるのではないかと思います。

元従業員逮捕の際からソフトバンク側は「民事訴訟を提起する予定」である旨を宣言していましたが、ついに1000億円規模の損賠賠償請求権の一部として10億円の訴訟に踏み切った様です。どういった決着になるにせよ、”産業スパイ”事件の代表事例となる事は間違いないかと思います。

 

過去記事参考:

foxsecurity.hatenablog.com

 

ソフトバンク側は元従業員が不正に持ち出した営業秘密を元に、楽天モバイル基地局建設などに”役立てた”と主張していますが、楽天モバイル側はそうした事実は確認されてないと否定していますので、裁判を通じてどういった事実判定になっていくのかが非常に気になる所です。

 

今回のソフトバンク側の公式発表では3つの論点を挙げていますが、中でも気になったのが基地局”建設における漏えいした営業秘密の不正利用の部分です。

よって、当社は今回の訴訟を通じて、楽天モバイルが同社の不正競争を通じて不当な利益を得て当社の営業上の利益を侵害したこと、また、当該不正競争により建設された基地局等が存在することを明らかにすべく不正競争防止法に基づき下記の請求を行います。

楽天モバイルおよび楽天モバイル元社員に対する損害賠償請求(不正競争防止法第4条)
楽天モバイルの不正競争により建設された基地局の使用差止請求(同法3条1項)および廃棄請求(同法3条2項)
楽天モバイル元社員が当社から持ち出した電子ファイル等の使用・開示差止請求(同法3条1項)および廃棄請求(同法3条2項)

 

真偽の程は分かりませんが、今回のリリース内容を見る限り、ソフトバンク側は”勝てる”と考えている様に思います。いずれにせよ、裁判の行方に注目したいと思います。

 

(以下想像を過分に含みます)

元従業員の楽天モバイル業務用PCに、ソフトバンクの営業機密データがあり、それを楽天モバイル社員(元従業員以外)に開示(=漏えい)している事が確認されている。ここは争点にはならない様です。

そして、楽天モバイルが整備した基地局の実態(状況証拠)から、営業秘密が不正利用されたと認定させる事にソフトバンク側は自信がある様に思えます。

 

前回記事から各メディアの関連情報を拾ってみると、やはり「お土産」として元従業員は楽天モバイルにファイルを持っていく”意思があった”事は間違いなく、それを「何も使わなかった」と、楽天モバイル側が明確に否定できる証拠があるとは考えられないので、元従業員に全ての責任を負わせるのは厳しい気がします。

楽天モバイル側は推定無罪、又は証拠不十分を狙い、ソフトバンク側は状況証拠等を使って”事実認定”を狙う法廷戦術になるのかな・・・と想像します。

・容疑者は通信設備の運用などを担う「伝送エンジニア」で、携帯電話のネットワーク構築に関わる業務にソフトバンクで従事
・容疑者はサーバーへの正規のアクセス権限を保有していた
・持ち出されたファイルはパスワードで管理されていたが、容疑者はそれを知る立場であっ
2019/12/31「5Gを含む無線基地局の配置情報などを無断で社外に漏出した疑い」
・私用パソコンで同社のテレワーク用のシステムを通じてサーバーに接続し、フリーメールアドレスに送信
・自宅のパソコンからソフトバンクのサーバーにアクセスし(正規の認証情報を用いて)営業秘密にあたる5Gの技術情報に関するファイルをみずからのアドレスにメールで送信
・(不正アクセスは)約30回。退職前に集中的に情報を集めていた形跡が確認された
・容疑者は通信ネットワーク管理ができる「線路主任技術者」の国家資格保持者
ソフトバンクには2004年7月~2019年12月31日まで在籍
2020年1月1日付けで楽天モバイルに入社
・容疑者は1か月前にはソフトバンクに退社の意向を伝えていた

 

余談です。この事件・・・退職日当日に(も)、元従業員がフリーアドレスにメールで営業秘密ファイルを送付するという、国家資格保有者の「伝送エンジニア」にしては考えられない”経路”選択ミスをした事から発覚しましたが、別な手段で正規の特権IDを用いてデータを持ち出していたら、恐らく”成功していた”と思います。

 

性善説の神話はもはや崩れた」この認識の下で、他の企業や組織は特権IDの管理(監視)、転職時の誓約書、機密情報の管理など、自組織のセキュリティ体制(内部漏洩対策)を改めてチェックすべきかと思います。

 

本日もご来訪ありがとうございました。

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 スパイの猫のイラスト

 

更新履歴

  • 2021年5月7日 AM