Fox on Security

セキュリティリサーチャー(インシデントアナリスト)で、セキュリティコンサルタントのキタきつねの独り言。専門はPCI DSS。

「新幹線オフィス」はビジネス需要を取り戻せるか

JR東日本の東北、上越、北陸各新幹線で「8号車限定」ながら新幹線オフィス車両を11/22から運行しています。社内でのリモートワークに適した支援ツールの貸し出しも一部列車で実施されている様です。

mainichi.jp

JR東日本は22日、同社が運行する東北、上越、北陸の各新幹線の全列車で、車内でリモートワークをしたい乗客向けの「オフィス新幹線」のサービスを始めた。8号車限定で座席での通話やウェブ会議が可能。追加料金なしで利用できる。2度の実証実験を経て、本格的な事業として始動した。

 新型コロナウイルス禍で落ち込んだ出張需要の喚起を狙い、旅行しながら仕事をする「ワーケーション」や東京と地方で生活拠点を複数持つなど、新しい働き方に対応するために企画した

 22日は営業運転中の北陸新幹線の車内が報道陣に公開された。8号車の扉には「オフィス車両」と書かれたステッカーが張られ、各座席にサービス内容を紹介するリーフレットが置かれた。JR東の社員が周囲の雑音を遮断するヘッドホンの使い方などを実演。こうした機器や小型の間仕切りなどを東北新幹線の一部列車で、無料で貸し出す。今後、北陸と上越の両新幹線でも貸し出しを検討する。

 

キタきつねの所感

私も、コロナ禍の前は頻繁に国内出張があったのですが、ここ2年程、現地に行く事が必要な案件以外は、ほぼリモート会議で済ませている事を考えると、新幹線のビジネス需要は壊滅的なダメージを受けているのかと思います。

第5派も収束を向かえ、人々の旅行意欲は増しているかと思いますが、ビジネス面ではどうかと考えると、出張=対面会議が無くても何とかなってしまった「ここ2年間」を、特に経営層や経理部門が「気づいてしまった」事により、緊急事態宣言が解除されても、「その出張は本当に必要なのか?」と厳しく見られている事が、ビジネス需要に大きく影響している気がします。

 

そんな中、新幹線オフィスサービスの開始という記事は、個人的には「光るモノ」を感じました。

まず最も素晴らしいと思うのが、追加料金なしという点。1車両(8号車)限定とはいえ、予め出張が決まっている場合には予約すれば良いだけですし、恐らく”子供連れ”や”団体客”といった、ある意味リモートワークの天敵といえる集団も、この車両を狙って予約してこないだろうと考えると、(グリーン車グランクラス以外で)集中できる環境に当たる可能性は高い気がします。

 

しかも、流石JR東日本と言うべきか、(12/1以降)専任アテンダントがいる限られた列車(東北新幹線の上下6本)のみですが、リモート支援ツールの貸し出しもしてくれるそうです。

www.jreast.co.jp

 

テーブルの上に置ける簡易間仕切りや、

f:id:foxcafelate:20211125111614p:plain

 

競馬のブリンカーを彷彿させる、ヘッドフォン付きのウェアラブル端末や、

f:id:foxcafelate:20211125111659p:plain

 

PCのサブモニターとしても使えるスマートグラスも貸し出してくれる様です。

f:id:foxcafelate:20211125111814p:plain

 

モバイルプリンターなどのツールも追加検討されている事を考えると、こうしたツールを上手く活用できれば、一定水準以上の仕事環境が実現できるかと思います。

 

しかし、課題もあります。JR東日本の検討チームの方々は、セキュリティbyデザインの考え方をする方はいなかった様です。

8号車限定で座席での通話やウェブ会議が可能。

毎日新聞記事より引用)

 

あまり車両に人が載っていないテスト段階では気にならなかった事かも知れませんが、こうした環境で、オンライン会議や社用携帯による電話作業をする、というのは機微な会話が難しい、あるいはPCから会議音声が漏れる可能性を、ほとんど考慮してないのかと思います。

つまり、PCでメールや仕事資料を閲覧、作成するといった作業には、普通車両に居る時よりは向いているとは言え、会議や通話音声という点で、周辺に”ダダ洩れ”になる可能性がある場合、企業内のセキュリティ担当部門の方は、かなりの確率で”原則禁止”の社内ルールを適用するかと思います。

 

社内の会議なら、単に出席して聞いているだけのアリバイ的な会議や、グループ内ミーティングなど機微ではない連絡を中心とした打合せという利用が多い方もいるかと思います。しかし、新幹線内で会議をしている他社担当が「自社の名前」出してを話しているのが、たまたま聴こえてしまったとしたら、匿名のクレームが来る未来しか想像できません。

 

また、貸出ツールも現段階での、という事なのかと思いますが、マイク付きヘッドフォンではなく、ブリンカー付きヘッドフォンなので、オンライン会議をするには自前の機器を準備するしかありません。

 

セキュリティとは直接的には関係が無いかも知れませんが、こうしたビジネス利用では、社用携帯や、新幹線内のフリーWi-Fiを使う事を念頭にサービス提供されるのかと思います。

そうした中、個人的な体験では、通信不良もビジネス会議や通話ではマイナスに働く気がします。オンライン会議でネットワーク品質の問題で”よく落ちる”場合、とても会議には適しません

※自分が発言者だった場合・・・かなり残念な結果を招きかねません。

 

私の場合は、いわゆる「トンネル問題」で携帯電話は仕方が無いとしてもWi-Fiルーターもよく切れていたので、この辺りが改善される何かJR東日本(だけでなく他のJR各社も)が提供してくれるのだとすれば、有償サービスであっても、一定以上のニーズがあるかと思います。

 

まだ実証明けすぐの、これから成長していくであろうサービスに過度な期待をするのはどうかと思いますし、何より無償サービスに言うべき事ではありませんが、JR東日本は、セキュリティ要素も入れてサービス拡張を検討していってくれると、国内出張需要拡大にも繋がってくる気がします。

 

余談です。サンワサプライが家庭内などに設置可能なワークブースを発表していましたが、まさにこんなブースを、立ち会議前提のブースでも良いので、新幹線の特別車両あるいは、禁煙コーナーの様な扱いで設置してくれると・・・上記のセキュリティ課題はかなり改善される気がします。

www.itmedia.co.jp

 

更に余談です。オフィスと違うコンセプトですが、、、同じ仕組みで”動画コンテンツ”閲覧に振り切ってしまう(≒エンターテイメント用機器の貸し出し)と、セキュリティ問題はほぼありませんし、映画を見るのに集中できる環境に対して”有償”サービスを買う需要は結構あるのではないでしょうか。

私の場合、出張の帰路で仕事をする気がないので、寝るか、スマホを見るか・・・という2択の事が多かったのですが、ビジネスバックには(重くて)嵩張る機器を、JRが貸してくれるなら、有償でも借りたい気もします。

 

 

本日もご来訪ありがとうございました。

Thank you for your visit. Let me know your thoughts in the comments.

 

猫に仕事を邪魔される人のイラスト(女性)

 

更新履歴

  • 2021年11月25日 AM