Fox on Security

セキュリティリサーチャー(インシデントアナリスト)で、セキュリティコンサルタントのキタきつねの独り言。専門はPCI DSS。

Twitterはソーシャルエンジニアリングで突破された

Twitterの著名人アカウントや企業アカウントが一斉に乗っ取られた被害はどうやらソーシャルエンジニアリングが原因だった様です。

www.nikkei.com

 

ツイッターSNS(交流サイト)上で15日、バイデン前米副大統領ら米著名人のアカウントが一斉に乗っ取られる被害が起きた。同社は何者かが従業員の社内システムへのアクセス権を盗み出し、不正アクセスしたのが原因としている。11月の米大統領選を控え、言論基盤としての信頼性に大きな傷を負うかたちとなった。

著名人らのアカウントの乗っ取りは現地時間の15日昼ごろに始まった。最初に注目を集めたのは3600万人超のフォロワーを抱える米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)のアカウントだ。暗号資産(仮想通貨)ビットコイン」を送金すれば「2倍にして返す」という内容のツイートが繰り返し投稿され、ツイッター上でマスク氏が乗っ取りの被害にあったのではないかとの見方が広がった。

日経新聞記事より引用)

 

 

キタきつねの所感

オバマ元大統領のアカウントが乗っ取られた記事を最初見た時に、どうやってセキュリティを破られたのか不思議に思ったのですが、2段階認証やパスワード設定といった個人のリテラシーの問題ではなく、Twitterのプラットフォーム全体へのメガハックと言っても過言では無い、攻撃キャンペーンによるものだった様です。

 

直接的な被害という点では、一部の有名人、著名人、企業アカウントがハッキングされた後、ビットコイン詐欺のTweetが大量にばら撒かれました。その数は3億5000万人以上と推定されています。

詐欺が30分以内に1000ドル分のビットコインを送ってくれたら倍にして返すと言う、非常に魅力的なTweetであった為、12万ドルが送金され、推定100人以上が詐欺に引っかかった様です。

 

実際にどんな感じで不正Tweetがされたのでしょうか。各社記事およびTwitter上に出ていた情報から少し拾ってみると以下の感じでした。

 

文面の多くは、「1000ドル相当のビットコインを送金してくれれば、2000ドル相当にして送り返します」というTweetです。”30分以内”と言う、どこぞやの通販番組でよく聞くフレーズに騙された、あるいは公式アカウントが故の信頼に騙された方は、色々と思う所があるのではないかと思います。

 

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Repoblicworld.com記事より引用

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Bloomberg記事より引用

 

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BBC記事より引用

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Twitter投稿より引用

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Twitter投稿より引用

 

文面は少なくても2パターン(多少アレンジ有)あり、上記以外では「CRYPTOFORHEALTH.COM」に誘導する様な投稿がされていました。

 

各社報道及びTwitter上で侵害されたと報じられていた主なアカウントは以下の通りです。著名人アカウント以外は、集中的に仮想通貨に関連するアカウントが狙われていた事がわかります。

 

■侵害された事が疑われる主なTwitterアカウント

著名アカウント フォロワー数 備考
Barack Obama 1.2億人 元米国大統領
Joe Biden 696.9万人 米国大統領候補
Kim Kardashian West 6575.1万人 モデル/女優
Elon Musk 3692.6万人 テスラCEO
Bill Gates 5120.6万人 マイクロソフトCEO
Kanye West 2982万人 ミュージシャン
Jeff Bezos 155.9万人 Amazon CEO
Mike Bloomberg 274.8万人 ブルームバーグ創業者
Warren Buffett 170.4万人 投資家
Floyd Mayweather 787.8万人 元プロボクサー
Wiz Khalifa 3645.8万人 ラッパー
CZ Binance 53.2万人 仮想通貨取引所Binance創業者兼CEO
Crypto Bitlord 12.1万人 有名トレーダー
Angelo฿TC 15.2万人 有名トレーダー
Charlie Lee 82.1万人 Litecoin作成者
Uber 104.2万人  
Apple 460.8万人  
Gemini 10.7万人 仮想通貨取引所
Coinbase 116.2万人 仮想通貨取引所
KUCOIN 35.9万人 仮想通貨取引所
CoinDesk 84.9万人 仮想通貨取引所
TRON Foundation 51.3万人  
Bitcoin 111.2万人  
Bitfinex 52万人 仮想通貨取引所
Ripple 95.2万人  
Cash APP 100.5万人 モバイル決済サービス

Twitter投稿より引用

※7/17 PM追記 約130以のアカウントが乗っ取られ、FBIが捜査中(ロイター記事

 

 

一方で、侵害を受けた側のTwitterサポートアカウントでは、事件の原因まで含めて、状況を逐次報告していました。ハッキングされた事はともかく、5回に渡るインシデント状況のTweet(発表)の仕方については、学ぶべき点が多いかも知れません。

 

Twitterのアカウントに影響を与えるセキュリティインシデントを認識しています。現在調査中であり、修正に向けて対策を講じています。私たちはすぐに皆を更新します。(機械翻訳2020/7/16 AM 6:45

このインシデントを確認して対処している間は、ツイートしたりパスワードをリセットしたりできない場合があります。(機械翻訳2020/7/16 AM 7:18

ほとんどのアカウントは再度ツイートできるはずです。修正に引き続き取り組んでいるため、この機能は消えていく可能性があります。できる限り迅速に通常の状態に戻すよう取り組んでいます。(機械翻訳2020/7/16 AM 9:41

調査はまだ進行中ですが、これまでにわかったことは次のとおりです。 機械翻訳2020/7/16 AM 11:38

一部システムとツールへのアクセス権を持つ従業員の一部を標的にした人々による、調整されたソーシャルエンジニアリング攻撃であると私たちが信じるものを検出しました。(機械翻訳2020/7/16 AM 11:38

私たちは、彼らがこのアクセス権を使用して、多くの視認性の高い(確認済みを含む)アカウントとツイートを管理していたことを知っています。 Googleでは、ユーザーが行った可能性のある他の悪意のあるアクティビティや、ユーザーがアクセスした可能性のある情報を調査しており、ここでさらに詳しく共有します。(機械翻訳2020/7/16 AM 11:38

インシデントに気づいた後、影響を受けたアカウントを直ちにロックダウンし、攻撃者が投稿したツイートを削除しました。(機械翻訳2020/7/16 AM 11:38

また、検証済みのすべてのアカウント(侵害された形跡のないものも含む)のように、はるかに大きなアカウントグループの機能を制限しました。(機械翻訳2020/7/16 AM 11:38

これは破壊的でしたが、リスクを軽減するための重要なステップでした。ほとんどの機能が復元されましたが、さらに措置を講じる場合があります。その場合は更新されます。(機械翻訳2020/7/16 AM 11:38

侵害されたアカウントをロックしました。安全に実行できると確信した場合にのみ、元のアカウント所有者へのアクセスを復元します。(機械翻訳2020/7/16 AM 11:38 

社内では、調査が行われている間、内部システムとツールへのアクセスを制限するために重要な措置を講じています。調査が進むにつれて、さらに更新が行われます。(機械翻訳2020/7/16 AM 11:38 

パスワードとアカウントアクセスに関してよく聞いた質問に対処するための更新があります。(機械翻訳2020/7/17 AM 4:18 

攻撃者がパスワードにアクセスしたという証拠はありません。現在、パスワードを再設定する必要はないと考えています。(機械翻訳2020/7/17 AM 4:18 

十分な注意を払い、昨日のインシデント対応の一環として人々のセキュリティを保護するために、過去30日間にアカウントのパスワードを変更しようとしたアカウントをロックする措置を講じました。(機械翻訳2020/7/17 AM 4:18 

追加のセキュリティ対策の一環として、パスワードを再設定できなかった可能性があります。まだロックされているアカウント以外は、今すぐパスワードをリセットできるはずです。(機械翻訳2020/7/17 AM 4:18  

アカウントがロックされている場合でも、必ずしもアカウントが侵害またはアクセスされたという証拠があるわけではありません。これまでのところ、これらのロックされたアカウントのごく一部のみが侵害されたと考えていますが、まだ調査中であり、影響を受けた人に通知します。(機械翻訳2020/7/17 AM 4:18  

積極的にロックされた場合でも、できるだけ早くアカウントにアクセスできるよう支援するよう取り組んでいます。正当な所有者にアクセスを許可していることを確認するために追加の手順を取っているため、これにはさらに時間がかかる場合があります。(機械翻訳2020/7/17 AM 4:18  

私たちは24時間体制で作業しており、今後もここで更新情報を提供していきます。(機械翻訳2020/7/17 AM 4:18  

 

侵害を受けた原因についてTwitter側は、

一部システムとツールへのアクセス権を持つ従業員の一部を標的にした人々による、調整されたソーシャルエンジニアリング攻撃であると私たちが信じるものを検出しました。(機械翻訳2020/7/16 AM 11:38

 

ソーシャルエンジニアリングが主原因だったと書いています。一方で、一部海外報道では「内部犯行」も疑われている様な書き方をしている記事もありました。

 

また、対策として書かれている事に、この事件のもう1つの原因が示唆されていると感じました。(以下、根拠はありません)

社内では、調査が行われている間、内部システムとツールへのアクセスを制限するために重要な措置を講じています。調査が進むにつれて、さらに更新が行われます。(機械翻訳2020/7/16 AM 11:38

 

それが、管理者アクセスが(恐らく)2段階認証が取られてなかったか、2段階認証部分まで含めて中間窃取されていた事です。そうでなければ、外部からのアクセス制限(ツールへのアクセス制限)を、対策として持ってこないと思うからです。

 

Twitter上では内部ツール画面と思わしきスクリーンショットがUPされてはTwitter側に消されている様です。(違う見方をすれば、スクリーンショットが本物である可能性が高いとも言えます)

 

MotherBoardの記事スクリーンショットが掲載されていましたので(記事を読むとハッカー側から共有された様です)、引用しますが、

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この様な内部ツールにまで、ハッカーに侵入された可能性が高い様です。

 

今回侵害を受けたアカウントの1つBinanceと思わしきアカウント画面も記事にあり、上記の管理画面が本物である可能性が高いと感じます。

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特権ユーザに対する、ソーシャルエンジニアリングの手法については、流石に影響範囲が大きかったので、Twitter社から今後追加情報が出てくる気がしますが、ここまでたどり着けてしまった事から考えると、やはりTwitter社の特権IDの守り方の部分に(潜在的な)脆弱点があったのは間違いない様です。

 

因みに、12万ドル相当の送付されてしまったビットコインですが、一部の取引所が自身のTwitterアカウントが標的にされた後に、支払いをブロックしたので、被害が限定的で収まる可能性もある様です。

 

※バフェット氏の名言に「波が引いた時に初めて誰が裸で泳いでいたか分かる」という言葉がありますが、1000ドル詐欺に引っかかった方は、この言葉を噛み締めているかも知れません。

 

 

余談です。侵害を受けたとされるApple、ですが、なんと投稿数が0ツィートになっていました。これも事件の影響かも知れません。

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バフェット氏のアカウントも、今回乗っ取られたと報じられていますが、彼のフォロワーには少し驚きだったかも知れません。2016年が最終投稿だったのにいきなりBITCOIN詐欺のTweetが出された訳ですから。

※総Tweet数10・・170万人のフォロワーが何を期待しているのか、私にはそちらも謎ですが。

 

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更に余談ですが、アカウント乗っ取りを受けた米国大統領選民主党の候補者ジョー・バイデン氏は自身のTwitterで、ビットコインを持っていないので、送ってくれるように頼むことはありません。」と述べた後で、自身の支持に結びつける文章を続けるという、強かさを感じるコメントTweetしています。トランプ氏にはやはり強敵になる予感がします。

 

 

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燃え上がる青い鳥のイラスト

 

更新履歴

  • 2020年7月17日 AM